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政務調査視察(ネパール) 2008.07.17〜07.27 pdf形式⇒詳細版報告書
視察先:ネパール連邦民主共和国(ポカラ市、カトマンズ市、パタン市)

目的:2006年の都市宣言における「平和」への貢献活動の先行事例を視察するため

ネパールの国情:

  • 人口 2,589万人(2005年/2006年度 政府中央統計局推計)
  • 面積 14.7万平方キロメートル
  • 首都 カトマンズ
  • 政治
     1990年に民主化運動を経て、国王親政体制から立憲君主制へ移行した。しかし、 1996年以降、マオイスト(共産党毛沢東派)が武装闘争を開始し、国内の広い地域を勢力下に収めていった。制憲議会選挙が2008年4月に行われた。5月28日には制憲議会の初会合が開催され、連邦民主共和制への移行が宣言され、王制が廃止されることとなった。本視察中の6月23日、初の大統領に第2党のネパール会議派のラム・バラン・ヤダブ書記長が、宣誓し就任した。
宗教:ヒンドゥー教徒(80.62%)、仏教徒(10.74%)、イスラム教徒(3.6%)他

識字率:53.7%(2001年 国勢調査)

日本との時差:3時間15分

[パタン市内見学]

 大きな通りの交通量はものすごい。大半がバイクと軽自動車でその中に普通車、トラック、バス、乗り合い三輪電気自動車、自転車などが混じる。徒歩の人も多い。放し飼いの犬も多く、ヒンドゥー教の国だけに放し飼いの牛もよく見られる。信号は数少なく、あっても電気が消えていたり点滅が多く、信号待ちするという風景は稀にしかない。交差点の右折や合流は強引な車が優先される。車はそれぞれ10秒に1度以上はクラクションをならしているようだ。政治の混乱により、この国ではまだまだ様々なルールが確立していないことが想像され、国民が苦労している様子が垣間見られたように感じた。
 道路には1車線を占領するように車の列が数百m形成されているのをよく見かけた。この国ではペトロラインと呼ばれる燃料の給油待ちの車列だった。石油は主にインドから購入しているが、その支払いが滞っていることによりインドが販売量を制限していることによるとのこと。後日、タクシーの運転手に聞いたところでは、2日半並んで10リットルしか入れてもらえなかったそうだ。このペトロラインが原因となり、通勤時間帯の渋滞は苛烈を極める。警察官もたまに見かけるが、ほとんどなす術がない。さらに石油価格の高騰は物価にも影響を及ぼし、1年前に比べてあらゆる物の価格が2倍強にもなったという。

[ポカラ市内見学]
 トレッキングの出発点となる町であり、オフシーズンとは言え西洋人風の観光客がよく見られる。特にペワ湖周辺には観光客相手のレストラン、ホテル、トレッキングガイド、登山用品店などが並ぶ。この町には水牛が多い。町の周辺には田んぼが広がり、農作業は主に女性が手作業で行っている姿をよく見かけた
[Children Nepal見学]
 この組織は1995年に設立された非営利・非政府団体。教育、保健、社会福祉等の分野で活躍するネパール人が、社会的弱者である子どもたちの身体的、精神的保護を目的として立ち上げたもの。建物はオランダのロータリークラブの支援により建設されたとのこと。
 ネパールには、大人たちに保護されることなく社会の片隅で生きる子どもたちが多く、彼らへの政府や公的機関による援助もほとんど行われることもなく、以下のようなケースに直面する子が多くいる。
  • 家庭内において日々の生計が成り立たず、必要最低限の衣食、教育、健康管理等の供給がなされない
  • 貧困ゆえに精神的なゆとりを失い、親から子への愛情を注ぐことができない
  • 社会福祉サービスが受けられていない等
 このような子どもたちを救済するために、主に以下の7つの事業を行っている。
  1. Children Nepalコンタクトセンター
  2. 女の子たちへの教育機会の提供
  3. 子どもの自立のための活動グループ
  4. 若い女性のための職業訓練
  5. ハンディクラフト
  6. 家族支援
  7. 保健衛生
[愛知アジアスカラーシップ奨学金受給希望者との面接立会]
 愛知アジアスカラーシップは、ネパール各地の小学生十数名に奨学金の提供を行っており、その支給を希望する子どもの面接に立ち会った。候補者は、ネパールからJICAを通じて日本での研修生経験を持つ人達のOB組織“JAAN”により選抜されている。ポカラにおいては、JAANがChildren Nepalの協力を得て奨学金希望者を抽出している。
 今回は男子1名と女子2名の面接を行った。面接に立ち会うのは愛知アジアスカラーシップ、JAAN、Children Nepalの各メンバー。資料として、学校の成績表とあわせて「Education Sponsorship Scheme」と題する資料が用意されている。これには、本人の年齢・健康状態・民族などの個人情報、両親の仕事などの家族情報、さらに経済的なことや両親による保護の状態などを含む家族コンディションについて記載されている。面接ではこれらを元に1人につき約15分程度、成績の推移や本人のやる気などの確認を行っている。
 面接終了後、スラムにあるこの中の1人の家を訪問した。ブロックを積み上げトタン板とその上に石の重しを乗せただけの粗末な建物。四畳半程の一間のみ。ここで祖母と子ども3人の4人が暮らしている。奨学金を希望している子の成績はクラスで一番でありながら、祖母と長女の収入に頼るだけでは間もなくドロップアウトせざるを得ないとの見通しとのこと。

 愛知アジアスカラーシップの面接は、ポカラで1回、カトマンズで2回の合計3回行われ、全てに立ち会った。

[Association For Craft Producers見学]
 この組織は1984年に手工芸品生産を通じて女性の収入向上をめざし設立されたNGO団体。ネパール国内の17地方に籠や織物、銅細工などの生産者グループを持ち、総生産者数は1,000人以上を有し、テキスタイル、フェルト、紙、木工、銅器、陶器などの製品を生産販売する。ACP自身は企画及びサンプルの作成を行い、販売を行う。量産品の製作は各地の生産者グループが行う。
 今回訪問時には、日本の青年海外協力隊のシニア隊員(茨城県出身)1名が陶器の製作指導をしていた。また米国のノートルダム大学の学生数名は、CADによる製品のデザインという形で奉仕していた。
 かつて豊橋の団体「ガラ紡機を贈る会」が女性の自立支援のため、ネパールに4台のガラ紡機を贈っており、1台は万博で日本に戻り、1台はマオイストの焼き討ちにあい破壊された。我々がこの施設を訪問した理由は、残る2台の内の1台がここにあるということを聞いており、その利用状況を確認するため。このことについて質問したところ、倉庫からガラ紡機を出してくれた。「使いたいと思うが、残念ながら使い方がわからない」とのことだった。因みに、もう1台のガラ紡機はルームジャタールという村にあるとのことだったが、針が壊れており使用不可の状態にあるとの情報を得た。

※ガラ紡機・・・打綿にかけた綿花等をブリキ製の綿筒の中に入れ、綿筒を回転させながら糸を引き出し、撚りのかかった紡績糸を得るもの。綿筒が回転する際にガラガラと音を立てることから、ガラ紡といわれた。

[二つの小学校訪問]
←SHREE SWATANTRA SHIKSHA SADAN小学校

 この小学校は、豊橋の女性団体(国際ソロプチミスト豊橋)が1993年に日本ユネスコ協会連盟を経由して校舎の建設資金65万円を寄附したことにより、建設が行われた。さらにこの女性団体の代表者数名は2000年にもこの小学校を訪問している。
 許可を得て、豊橋の女性団体からのプレゼントを生徒1人ひとりに手渡した。プレゼントは当地で購入。1人あたり100円程度の予算で文房具屋で調達したところ、鉛筆2本、ノート2冊、筆箱1個、簡易鉛筆削り1個となった。日本で買うより相当安く、多くの物を購入することができた。

Shree Bal Vidyashram小学校→

 この学校には2006年豊橋市立多米小学校児童から文房具が贈られており、その後の様子を確認した。現時点でこの小学校に在籍するのは、1〜5年生で児童数は約150名。教員は5名。午前10時から午後3時半まで授業を行っている。近年、児童数の増加が著しく、一つの教室をベニヤ板で二つに仕切って使うなどしている。しかし、机、椅子、教材などが不足しているとのことだった。

[チョバールの尼寺SULAKSHAN KIRTI VIHAR訪問]
 この尼寺では女性自立支援のための活動を行っている。「ガラ紡機を贈る会」とは別に、豊橋工業高校が調整をして贈った64錘のガラ紡機が置かれていると聞いたため、利用状況を聞いた。残念ながら、ここでも使い方がわからず少し離れたところにある倉庫に保管されているとのことだった。その倉庫の所有者がカトマンズを離れているために、現物の確認はできなかった。
[JICA(国際協力機構)訪問]

 各国あるいは日本のNGOが行うネパールへの教育等の支援の動向について聞いた。各国ともに、限られた資金を有効に支援に活用するための方策の検討が進められた結果、Donor(援助国)が連携をする方向に進みつつあるとのこと。ネパール政府が基金を一括管理する方向にある。しかし、JICAとしてはExit Strategyにこだわっており、この考えには賛同していない。Exit Strategyとは、被支援国を支援漬けにして支援慣れさせることなく、いつかは支援を不要とする自立の可能性を大切にするという戦略とのこと。
 ネパール政府は、ドナーの協力を得て2015年までに質の高い初等教育を受ける機会を提供することや、男女間格差解消を含む6つのEducation For Allゴールの達成を目指している。


 JICAは3つの分野で協力している。

  • 就学機会の拡充
  • 教育の質的改善
  • 行政能力改善
 ネパールで支援活動を行う主な日本の団体の教育支援の方策は大きく分けて3つになる。
  1. 建物を作る
  2. 奨学金を送る
  3. 学校運営の支援。新たに学校を作る場合には、地元の住民組織があるかどうかが重要な要素となる。
[UNESCOオフィス訪問]

 本オフィスはネパール政府との協定が締結された1998年に設置された。ユネスコの優先プログラム領域は、教育、文化、Communication & Information。教育プログラムではネパールで行われているEducation for All(EFA)運動のサポートなど初等教育に重点を置き行われている。本オフィスでは直接支援活動を行うことは少なく、実態調査などの活動がメインとなっている。その内容は@読み書き能力Aローカル言語での数学教育B万人の教育C15歳以上の読み書き能力D男女平等E教育の質などの項目についての調査を行っている。
 ネパールにおける就学率は1年生入学時で約89%。その後ドロップアウトする子があるため、5年生では17〜18%が不就学となる。JICAは教師教育やドロップアウトした子のための教育コースを作ったり、奨学金を設けるなどの協力をしてくれている。

[世界遺産カトマンズ盆地の見学]

 カトマンズ盆地には、ヒンドゥー教と仏教が共存する独特の宗教文化が育まれ、東西25Km、南北20Kmほどの中に、重要な歴史的建造物がひしめき合うという世界にも類を見ない場所となっている。カトマンズ、パタン、バクタプールという3つの古都と、4つのヒンドゥー教および仏教の建造物群が世界遺産に登録されており、レンガと木材を巧みに組み合わせた建築技法や精緻な彫刻など独特の様式が、技術の高さを今に伝えている。この地には7世紀頃に王朝が成立し、13世紀頃にこの地を治めたマッラ王朝によって建てられた王宮や寺院、伝統的な住居が多く残る。しかし、20世紀末からの反政府活動にともなう財政難が災いして修復費の工面もままならず崩壊の危機にあるものが少なくない。そうした現状からカトマンズ盆地は危機にさらされている世界遺産に登録されている。


バクタプール ダルバール広場

スワヤンブの寺院

ボウダナートの寺院

カトマンズのダルバール広場
まとめ:今回の視察では、様々な教育活動支援、女性自立支援の活動現場をみることができた。国の政治が混乱する中で庶民の生活は困窮しており、現地の皆さんが外国からの支援、とりわけ子どもたちの教育の充実に対する支援を熱望していることを実感した。その方法についても、学校建設、奨学金支給、女性自立支援においては機械装置の寄贈など様々なものを見ることができた。今回感じたことは、どのような形で支援するにしても、フェイス トゥ フェイスの関係を持つことの重要さである。理由の一つは、支援者の意思に従った活用がされるためであり、もう一つは支援される側の本当に求めるものを理解するためということによる。さらにそのことを通じて、お互いの人間関係が形成されることが平和建設に大きく寄与することも期待できると感じた。  世界遺産の保護という視点からも見聞したが、これについては莫大な資金を要するものであり、豊橋市のような地方都市や市民団体の力では有効な支援をするのは困難であることが推察された。むしろ、多くの人が訪れその文化を理解する機会を増やすことができるように、市民活動として情報提供をする程度の貢献が現実的だと思われる。  昨今の日本では豊かな社会が実現した結果、国や自治体から様々なサービスが提供されることが当たり前のように感じられ、助けを必要とする人たちのために奉仕しようとする市民の心が薄れていることが危惧される。極端なケースでは、身勝手な理屈から大事件を起こすということも頻繁にあり、殺伐とした世相になっている。思い遣りに満ちた社会づくりのためには、行政として市民が積極的な平和建設への関与を行える仕組みづくりを行うことが有効な手段の一つになると、今回の視察で実感した。現在、国際交流の一環として米国に中学生を派遣するなどが行われているが、国際社会の中で役立つことのできる場を見出すためには、貧しい国を見ることが有効ではないかとも考えられる。学校教育の中で貧しい国の現状を知らせ交流を進めることや、市民団体の行う貧しい国に対する教育支援活動の促進など、今後さらにその方策について研究をしていきたい。

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